春にうまれたあなたのこと/藤丘 香子
 
れは季節のあちらこちらに散らばり
そのほとんどを見つけ出すことは
とびっきり難しい
あなたの車窓にも見えるだろうか





見覚えのある景色の中では
つま先が空を見る
遥かな空を見上げ計測してみる

あなたは遥かで
あなたは空で
あなたは春で

そうしてあなたは
いちばん近いところに
いちばん近いところに
つま先が空を向いている





林の中にも季節があり
気がつかない命の準備がある

そうして循環の中に秋があり
知っている温度があり
かつて耳を澄ましていた春がある

あなたは春にうまれ
わたしは秋にうまれ
季節の中で咲く花がある

花を咲かせる本当の意味を知る
という贅沢は
新たな空腹を生む

そうしてくりかえす営みの中で
時期に逆らわないことの全てと
知らないということに
気付いていくのかもしれない

わたしは秋の林を歩いている
贈り物はまだ届けられそうにもない

遥かな空
あなたは春にうまれた




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