石榴/ワタナベ
黒い布で顔を覆い隠した女が
まるみをおびた重いはらをかばいながら
前から、後ろから早足で通り過ぎる人々に
おびえるような足取りで市場を歩いている
ときおり女の腰のあたりにぶつかっては
”ベバフシードゥ”とはにかみながら謝って
走り去っていく少年の後姿は
女の顔にぽっかりとあいた二つの穴に入ることなく
(女は知っている、走り去った少年の行く先を、あの笑顔の上に塗られる影のことを)
女は石榴を一つ買い求め
市場をあとにした
夜中、病院の待合室で貧乏ゆすりをしている
どこにでもいるような青年の鼓膜を命の産声がふるわせた
青年はあわてて病室のドアを開け
どこにでもいるような
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