虚偽と忘却のエピソード/atsuchan69
 


 ありふれた住宅街が、今日も暮れようとしていた。
 「なんか色々あったな」
 わたしは自宅までのほんの数十メートルを歩き、そう呟いた。「今日か。――それは、いくぶん不可思議な事の成りゆきだ」
 ふり向いて、住宅街の生活道路をしばらく後ろ歩きしてみた。豪邸ならともかく、新築の建売は確かにどの家もそっくりだった。ふたたび前方に姿勢を向けると、すぐそこにローンで買った築五年目のマイホームが見えている。ガレージには、妻が乗るクルマがちゃんと前向き駐車で停まっていた。それから、鐘(つりがね)みたいな花をいっぱい咲かせるアベリアを植えた生け垣の向こうでは、既にセンサー付きの門灯が薄闇にぼんやり
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