夜汽車/たりぽん(大理 奔)
夜汽車に揺られているということだ
どこかから離れて
どこかへ近づいていく
珈琲を飲み干しただけの私は
すでにさっきまでの場所にも居ない
どこにも居ないのに、ここにいる
誰かの居なくなったそらを
稲妻が走っても
そこにいない何かには
何の関係もない
私にとっては
夜汽車に揺られているということだ
もうないものから
逃げることはできない
ないということが
すべてにひそむということ
草いきれだらけの堤防を
はしっても走っても
星座はかわらないのに
じっと座って
流れる光を追っていると
東の空から白い星が昇ってくる
ああ、まるで
夜汽車に揺られているということだ
改札の車掌が現れて
乗り越しの朱印を手のひらに刻む
おりることはかなわない
ひそむものにとらわれ
眠れぬまま
夜汽車に揺られている
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