◆春の扉/千波 一也
 
吹きぬける冷たい風の空高く
ひかりの鼓動は
静かにそそぐ



雪解けをあつめて川は哭いている
生まれたばかりのわたしの春に


ひとひらの可憐な花は弓使い
瞳砕けて曇りをうるむ


足もとの小石も土もおなじ色
分かつ救いにつまずいて嗅ぐ



すれ違うこころの指に鍵のおと
なくさずにある
ただそれだけの


純粋に薄れてしまう哀しみを
混ざりあわせて荷はあおく澄む


みえなくて染まってしまう浅はかさ
乾く間もなく想いはあふれて


めくられた日記のなかの草原に
髪さそわれて風としたしむ


温もりを胸の深くに抱きしめて
過ぎゆく景色に会釈をひとつ



きみの名をまもり通せる細腕を
誇り、恥じらい、ちいさく駈ける



約束はいつかかならず果たされる
だれかの扉で
見知らぬ顔で



透明にそらの無言を受けとめて
数限りなき分岐路に咲け






   グループ"【定型のあそび】"
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