ありうべからざる色彩/佐々宝砂
 
――油膜のような色なんだ、赤にも緑にも見える。

Tはテーブルの上のカップに視線を注いだまま
落ち着かない様子で呟き口に手を当てる
僕は僕で
冠雪して間もない山なみを窓ガラス越しに見ながら
Tの父親のことを思い出していた

Tの父親が死んだのは
フジサンロクオームナク と
警察があの山の向こうで大騒ぎしていた
そのすこしばかりあとのことで
老いた百姓の死は話題にのぼらなかった
誰が見ても自殺としか考えようのない状況でもあった
血みどろの風呂場に倒れたTの父親は
右手にカミソリを握りしめ
左手に数本の深い切り傷
胸のポケットには息子であるTに宛てた遺書
しかしその
[次のページ]
  グループ"Poem room of Arkham house"
   Point(4)