ハスターの僕/佐々宝砂
印を結ぶまでもなく
彼のものを召喚するまでもなく
すでに定められていたらしかった
パルプの汚泥で黒ずむ東海の海辺に生まれ落ちたとき
太陽と水星はともに宝瓶宮にあった
あるいは優しい人びととの会話よりも
暗い書物の暗い文字に愛を見出したとき
定められたのかもしれなかった
いずれにせよもはや
いかなる意味でも自由意志は失われる
海を波立てるものよ
風に乗って駈ける姿なき咆哮よ
形容詞過多な散文のあいまから
かすかに立ちのぼる究極の風の息吹よ
その冷徹にして非人間的な声で
命ずるがよい
われはハスターの僕(しもべ)
この身体は一本の矮小な送声管
灰白色のレンから吹き来る声を伝えるためにこそ
存在を許されるもの
参考文献 『魔道書ネクロノミコン』(学研)
ラヴクラフト全集(東京創元社)他
小詩集"Poem room of Arkham house"より
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