父と自転車と蒼と/蒸発王
何年かぶりに
自転車に乗った
早朝
海岸への坂道を立ち漕ぎする
自転車に乗るのは
本当に
本当に久しぶりだ
きつい登りに
太ももが悲鳴を上げる
こんな路を
幼かったとはいえ
私を乗せて
父は上っていたのか
海の風が前髪を跳ね上げる
見えてくる青空のパノラマを横目に
記憶にある父の背中が蘇る
自転車の後
小さな椅子に座って
少し前のめりに揺れる
父の背中
煙草は吸わない人だったが
自転車の時は別で
メンソールの切れ長な煙が
私の頬を掠めて流れた
ハッカの煙が
冬の
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