父と自転車と蒼と/蒸発王
冬の匂いに混じってよく映えた
蒼いワイシャツを着た
父の後姿から目を落として
下を見ると
灰色のアスファルトが
しゅるしゅると後に滑り込む
カモメの声に顔を上げると
砂浜は目の前だった
あれから10年
父はもう居ない
しゃん、 と
格好の良い音を立てて
スタンドが立つ
父のワイシャツと良く似た色の空が
一面に広がっている
少しくたびれたその色に
緑色の煙草を出して
メンソールの煙を吐き出す
潮騒のゆらめきを聞きながら
父の背中にそっくりの
空ばかり見ていた
この蒼を瞳に貯め込んで
眼球に父の背中を溢れさせ
目を真っ青に染め上げよう
何
困りはしない
その目元を
白いベールで隠してしまうのだから
父さん、
今日私は
お嫁に行きます
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