家なき子(名作贋作劇場)/佐々宝砂
カピよ、そう吠えるな。
レミはもう眠ってしまったよ。
儂(わし)も眠りたいのはやまやまだが、
年寄りはなかなか寝付けないのだよ。
ごらん、水に映る儂の顔はすっかり年寄ってしまった。
思えば長く旅を続けたな。
儂の連れは犬と猿、それから古いこの手風琴、
明日を思い煩うこともなく、
辻から辻へ家から家へ気楽な旅路、
時には炭坑の底にまでもぐったものだ。
しかしいま儂は明日という日が恐ろしい。
年寄って死が近づいたからではない。
レミは母親と父親に再会するだろう、
レミとその家族はそれから幸せに暮らすだろう、
そうでなければこのお話は終わらぬ。
しかし儂はその日が恐ろしい。
レミなしで儂は旅ができるだろうか?
皆目見当がつかぬ。
エクトール・アンリ・マロよ。
そこまで考えてくれているかね?
物語の年寄りに、
養老院は用意されているかね?
そんなものがあるならば、
儂はせめてカピを連れてゆきたい、
レミにはレミの幸せがいちばんよいが、
儂にも儂の幸せがあるはずなのだから。
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