逆巻く酒巻/佐々宝砂
 
逆巻きなさい、酒巻よ

我らが主人公の名は酒巻である。これを読んでいるあなたの氏姓が酒巻であったとしても、またあなたのお住まいが埼玉県行田市酒巻であったとしても、それは単なる偶然の一致に過ぎないのでお気になさらぬように。さて、夢見がちな詩人肌、と言えば聞こえはよいが、実は三十歳にして普免以外に資格を持たぬ甲斐性なしフリーターに過ぎない酒巻の耳に届いた声は、いささかハスキーではあったが確かに女性の声だった。そして確かに、この世ではない場所から響いた天啓と思われた。そこで夢見がちな甲斐性なしであるところの酒巻は決意してしまった。俺は逆巻くのだ! それが俺の天命だ! 孔子でさえも天命を知ったのは五十
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   グループ"Light Epics"
   Point(5)