夏のナイフ/佐々宝砂
っと流血の惨事。
私はプリプリしながら傷に消毒薬を塗る。
それはまあいい。
たいしたことなかったからいい。
それよりアタマにくるのは、
あれってなんだったの?と
ダンナに訊いても、
ありゃひごのかみさ、
というだけで、
ちっとも説明してくれないことだ。
そのくせダンナはブツブツとひとりごと、
ずっとほしかったって?
あいつ、三年しかこの世にいなかったじゃないか。
そういや四十五回忌か。
四十八年もほしがってたのか。
ひごのかみって、カミサマ?と訊いたら、
ダンナはゲラゲラ笑って、
それからいやにしんみりと、
手酌で焼酎を飲みだした。
家鳴りは鎮まり、
なまぐさいのもいつのまにか収まって、
網戸から涼しい風が吹いてきた。

初出 蘭の会2003年8月月例詩集
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