歓喜の海/佐々宝砂
最後の夜なんだからどうせなら
もっといい男と過ごしたかったよと言うと
そりゃ俺も同感だもっといい女がよかったよと
答えたその男をみると
なぜかそいつは夫でも昔の恋人でもなく
遠い昔に仲がよかった同級生で
どうしてそうなんだか知らないけど
まあいいや
手をつなげばつないだだけ暖かい
悪意の熱風を想像して
アナウンサーは泣いている
もう落ち着けと叫ぶ気は失せたらしい
それでもまだ放送を続けてるなんてさ
日本人ってまじめだよねこんな状況下でさ
と言いながら私はホテルの壁にもたれる
ホテルの向かいには
略奪のあとすさまじいコンビニ
しらじらと明るい店内灯が
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