歓喜の海/佐々宝砂
 
最後の夜なんだからどうせなら
もっといい男と過ごしたかったよと言うと
そりゃ俺も同感だもっといい女がよかったよと
答えたその男をみると
なぜかそいつは夫でも昔の恋人でもなく
遠い昔に仲がよかった同級生で
どうしてそうなんだか知らないけど
まあいいや
手をつなげばつないだだけ暖かい

悪意の熱風を想像して
アナウンサーは泣いている
もう落ち着けと叫ぶ気は失せたらしい

それでもまだ放送を続けてるなんてさ
日本人ってまじめだよねこんな状況下でさ
と言いながら私はホテルの壁にもたれる

ホテルの向かいには
略奪のあとすさまじいコンビニ
しらじらと明るい店内灯が

[次のページ]
   グループ"Light Epics"
   Point(1)