星涯哀歌 3/佐々宝砂
 
あのひとはあそこにいるのだと
思い馳せてみる二日月の夜

量子テレポーテーションの実験成果を問う
いたって事務的なメールを受信し
月の裏側での勤務を希望する
いたって事務的なメールを送信する

貴重な自由時間は無為のうちに過ぎる
娯しみ少ないドーム基地で
手すさびに描く絵は
いつもどうしたことかモノクロの横顔ばかりで
ハードに保存する気にもならず
描かれては消され描かれては消され

逡巡のあと私は
簡潔な私信を地球に送信する
私は元気だ と
健康でちょっと肥りすぎたくらいだ と

孤独な夜の顔は
あのひとには見せない
地球には見せない
月の裏側のように

天窓を仰げば
満月より明るい地球照
反射に反射を重ねて
この光は
本当にあのひとのもとに届くのだろうか

私を乗せた月球は
こうしているあいまにも
わずかずつわずかずつ
あのひとから遠ざかってゆくのに


   グループ"Light Epics"
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