おまん瞑目(おまんとくれは、その壱)/佐々宝砂
信濃路にその名も高き戸隠の、
白峰(しらね)の雪は幾重に積り、
今はいづこに紅葉やある。
夜はよい、昼よりよい、とおまんは思ふ。
からかひ囃す子らがゐない。
後ろ指指す大人もゐない。
頭丸めたおまんのそそ毛、
千本繋げば都に届く、
頭丸めてそそ毛は剃らぬ、
おまんのそそ毛は金色(こんじき)五色(ごしき)。
おまんは草庵にひとり、瞑目する。
吹雪はやんで月夜になつたらしい。
火燭も炭も焚かぬ草庵の、
破(や)れ毀(こぼ)ちた板壁よりほんのりと雪灯りして。
思へばかのひとに出逢ひ初(そ)めたは、
このやうに雪灯りする夜であつた。
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