血と百合の遁走曲/佐々宝砂
墓所
朝な夕な花を捧げる、
深紅の薔薇ではなく、
白い百合を。
ただひとつだけ、
海に背を向けたその墓。
没年は百年前かあるいは二百年前か、
墓石の文字は薄れて読めない。
なぜ心惹かれるか知らず、
疑いも覚えず、
ただ心惹かれるままに、
彼女は花を捧げる、
刈りとったばかりの、新鮮な、
露に濡れた白い百合を。
早朝の弥撒(ミサ)
賛美歌を耳にしたとたん、
彼女は叫び声ひとつあげずに倒れた。
明け方前の弥撒ははじまったばかり、
彼はまだ説教台にあがっていなかった。
床に落ちた聖書と百合。
抱き起こそうとする腕。
首筋に
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