捨てられない運動靴/恋月 ぴの
どうしても捨てられないものがある
幼い頃母に買って貰った運動靴
靴入れの奥に今も大切にしまってある
いつかあなたもシンデレラになるのかなと
七歳の誕生日に買ってくれた運動靴
そういえばこの季節になると思い出す
小学校のおばあちゃん先生から聞いたはなし
わたしの担任だった先生の幼い頃のはなし
それは蝉しぐれ降る暑い夏のこと
見上げれば夕焼け空のように真っ赤で
もの凄い音が一晩中鳴り響いた長い夜が明けて
家族とはぐれてしまったおばあちゃん先生が
冬景色の野山になった街中を歩いていると
死んだ乳飲み子を抱えたおんなのひとに
どうしても水が飲みたいと頼まれて
はいていた赤い運
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