捨てられない運動靴/
恋月 ぴの
い運動靴の片方で
真っ赤に濁っている川の水を運んだ
他には何もなかったんだって
他には何も手だてはなかったんだって
灰色に汚れた運動靴にたまった赤い水を
おんなのひとは美味しそうに飲んだらしいよ
あの頃は汚いなとしか思わなかったけど
大切なものは何だったのか判りかけてきた
今ならきっと判るような気がする
どうしても捨てられないものがある
今年の夏も蝉しぐれ絶え間なく降り続けて
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