森の背中/佐々宝砂
口が
傷口が
あたしは背中の傷に唇をつけて
その血を啜りたいと思ったのだった
しばらくたってあたしは
森をあたしんちの近くの土手に呼びつけた
服を剥いで背中を思い切り蹴飛ばし
倒れたところを踏みにじった
埃まみれの顔に鼻水が流れて
ものすごくみっともなかった
森は痩せていたから
背中には余分な脂肪というものがなかった
小型の骨格標本に筋肉組織をはりつけたみたいで
肩胛骨がやたらに目立った
その肩胛骨の上に
例の傷口があったが
それはもうあたしの心をそそらなかった
傷はまだ生々しく
あたしがかさぶたを無理に剥がしたので
血は充分ににじみでたのに
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