森の背中/佐々宝砂
も裸の背中が
寝ても覚めても脳裏に浮かんで
消え去らなくなったのは
かったるい水泳の授業が終わってからのこと
更衣室から教室に戻ると
森が上半身裸で机に突っ伏していた
そのうしろでみんなががやがやと騒いでいたのは
森の背中に十センチくらいの切り傷があって
たらたらと血が流れていたからなのだけど
なにしろケガをしていたのが森だったから
誰も保健室に行けとは言わなかった
森なんかどうでもよかった
顔も性格も声もなにもかもどうでもよかった
いやどうでもいいというよりも積極的に嫌いだった
でもその背中の傷が
水で少しふやけた白い背中が
そこに赤く開いていた傷口が
[次のページ]
前 次 グループ"Strange Lovers"
編 削 Point(5)