春 景/塔野夏子
窓から見おろす午後の広場を
満たしているのは
懶(ものう)い閑雅と
ほんのわずかな挑発
とりどりのチューリップの咲く
花壇のそばのベンチには
一対の恋人
彼の心臓は水晶製
彼女の心臓はオパール製
二人のあいだの囁きは
螺鈿細工
中央の華奢な噴水の上に
気怠く浮かび 回転木馬のように
ゆっくりと廻っているのは
いくつかの仮面たち
半透明の微笑の
ああもしかしたら
この円い広場とそれをとりかこむ一帯も
まわりから離れて浮遊して
ゆっくりと廻転しているのかもしれない
前 次 グループ"春のオブジェ"
編 削 Point(2)