春 景/塔野夏子
 
窓から見おろす午後の広場を
満たしているのは
懶(ものう)い閑雅と
ほんのわずかな挑発

とりどりのチューリップの咲く
花壇のそばのベンチには
一対の恋人

彼の心臓は水晶製
彼女の心臓はオパール製
二人のあいだの囁きは
螺鈿細工

中央の華奢な噴水の上に
気怠く浮かび 回転木馬のように
ゆっくりと廻っているのは
いくつかの仮面たち
半透明の微笑の

ああもしかしたら
この円い広場とそれをとりかこむ一帯も
まわりから離れて浮遊して
ゆっくりと廻転しているのかもしれない




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