近代詩再読 村野四郎/岡部淳太郎
 
ある動物を描いたものであろう。「さんたんたる鮟鱇」では「見なれない手が寄ってきて/切りさいなみ 削りとり/だんだん稀薄になっていく この実在」と、まさに殺戮の瞬間そのものが描かれているのだが、「鹿」においては「彼は知っていた/小さい額が狙われているのを」とあるように、これから先の死という未来の前で鹿は「じっと立って」いるのだ。鮟鱇にしても鹿にしても、彼等はそれぞれ孤独に死ななければならない。だが、鹿は死を予感しながらも、残された生を生きようとする。「生きる時間が黄金のように光る」けれども、その「時間」は「大きい森の夜を背景にして」いるのだ。そこにある孤独感、乾いた絶望(あるいは希望)。



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