近代詩再読 村野四郎/岡部淳太郎
 
らく最も有名であろうと思われる「鹿」(『亡羊記』一九五九年所収)も、そうした孤独感を表出した詩の系譜に連なるものと思われる。


鹿は 森のはずれの
夕日の中に じっと立っていた
彼は知っていた
小さい額が狙われているのを
けれども 彼に
どうすることが出来ただろう
彼は すんなり立って
村の方を見ていた
生きる時間が黄金のように光る
彼の棲家である
大きい森の夜を背景にして

(「鹿」全行)


 これはそのひとつ前の詩集『抽象の城』(一九五四年)に収められた「さんたんたる鮟鱇」と同じように、いままさに死につつある
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