近代詩再読 村野四郎/岡部淳太郎
 
いるように思える。第一連の「夏桃のくろい茂みが虫にくわれて/そのむこうから/空が剥がれてきた」といった感覚的な喩が代表的だが、この詩はただ難しい喩を使ったわかりにくい詩で終ってはいない。第二連以降に描かれた切実な孤独の感覚こそがこの詩のテーマであり、読む方もそこに最も惹きつけられるのではないだろうか。「だが見おぼえのある人は/ひとりも通らなかった」「何かやさしいものが/耳もとを掠めていったが/振りむいて見ようともしなかった/はじめから おれには主人がなかったことを/憶えきれないほどの多くの不幸が/おしえていて呉れたからだ」といった孤独感をうたった詩行の前後に挟まれる喩、たとえば「街には コスモスが
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