近代詩再読 村野四郎/岡部淳太郎
 
なかったことを
憶えきれないほどの多くの不幸が
おしえていて呉れたからだ

おれは 熱い舌を垂らしていた

(「秋の犬」全行)

 詩集『実在の岸辺』(一九五二年)に収められた詩だが、この詩などは「荒地」の誰かが書いたといっても信じてしまいそうになる。それほどに現代的だ。特に最後の「おれは 熱い舌を垂らしていた」という一行は、田村隆一の「イメジ」の最終行「わたしは犬のように舌を垂らしている。」とそっくりなので、なおさらそう感じられる。
 これまで紹介してきた詩はわりと控え目な喩を使用したものが多かったが、この詩の場合はそれよりもやや難解な喩を使用している
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