幽霊と桜/岡部淳太郎
桜の木の根元を掘り出してみるといいわ
私の屍体が出てくるかもしれなくてよ
もしそんなことにでもなったら
あの小説家の言っていたことも
あながち的外れでもなかったってことになるけど
もしあなたが
私と同じぐらいに淋しくて
暇を持て余しているのなら
私みたいに死んでいるってことになるわね
そうじゃない?
ねえ
そういえば
まだ生きているっていうのに
あなたも死んだような目をしているじゃない
そこらじゅうで花に酔っている人たちとは
まるで違って見えるわよ
ご自分の両足がまだちゃんとついているかどうか
確かめてみた方がよさそうね
私ほどじゃないけれど
随分と淋しそうなたたずまいじゃないの
そんなに淋しいのなら
私がとり憑いてあげましょうか?
ねえ
そういえば
こんな暖かい春の日に死んだ人を
あなたも知っているんですって?
あなたの大切な人だったらしいけど
その人も
私と同じような
淋しい目をしていたのかしら?
ねえ
(二〇〇六年二月)
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