死神と私 −真夜中に降る雨−/蒸発王
死神は夫が死ぬのが分かっていたらしく
夫が死ぬ前夜からおいおいと哀しみの前倒しをしていて
葬儀当日には腫れたマブタをショボショボさせて席に座っていました
息子は初めて着た喪服の中に窮屈そうにおさまって
普段は吸わない煙草をガブガブと吸って
煙で目がしみるんだ と涙目の言い訳をしていました
私は
私は涙を流すと
涙と一緒に夫の思い出も出ていってしまう気がして
ただ夫の笑う写真を睨みつけていました
沢山の人々が夫を思い出して
夫の思い出を涙に溶かして体外に排出しています
解っていたことです
識っていたことです
驚いてなどいません
なのに心は騒が
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