死神と私 −旅に出るから−/蒸発王
でも
凄く痛そうな顔で
“その名前で呼ばないで下さい”
と私の唇をしっと押さえるのです
そう言った時の死神の瞳が本当に困っていたので
私は其れ以来
死神をその名前で呼びませんでした
どうして
こんな何十年も前のことを思い出すのでしょう
ここの所どんどん物忘れも激しくなって
眠る前に見た空の色さえ思い出せず
胸をわずらって入院しているというのに
再び窓の外を見ると
窓の外にはオリオンが凍てついていました
最近はこの寝たきりの病床に親しみを感じ
よく星を見ては
夢の中で星座を旅するようになりました
今日の旅行先はオリオンに決定です
月の砂浜
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