死神と私 −雪溶け−/蒸発王
 
契約を結び
その時
空にちらついていた綿毛
冬の白い風物詩の一文字を娘に与えました


そうして引きうけた娘が年をとって
雪の降った夕暮れ
この墓石の下に眠っています
僕は死神だから死に敏感で
いつも薄っぺらな冷たい涙を流していたというのに
彼女の墓前を目の前にして
どうしてか涙一つ流せません
ただ体中が軋んで何かに押しつぶされてしまいそうで
なかなか立ち上がることができません

目の前ある墓石には僕のつけた名前が刻まれ
その名のとうりの白い雪が積っています
墓石の雪を眺めながら
記憶をたどっていきます

夜の腕や蒼い電車を心配した冬
朝焼けの起こし方を
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