欲の物語/アンテ
彼女は胸の箱を隠しながらうなずき
慌てて泉を出て服を着た
少年は彼女には興味を示さずに
するすると服を脱いで泉で泳ぎはじめた
驚いたことに
少年の胸にも小さな箱が埋まっていた
彼女は泉の縁にすわって
しばらくは少年を眺めていたが
我慢しきれずに箱のことを訊ねた
少年は特に隠そうともせずに
欲しいものを願いながら箱の蓋を開けると
どんな物でもこの中に入ってしまうのだと答えた
彼女は少年の箱が欲しくなって
木々に隠れて服を脱ぎ
自分の胸の箱を開けて中に手を入れた
すると少年の胸の箱が開いて
中から手が現れ
なにかを探すように辺りの様子をさぐってから
一直線に伸びて
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