気持ちの物語/アンテ
 

                           (喪失の物語)


特別な出来事や心の高ぶりが生じるたび
これこそが本物に違いないと確信して
彼女は自分の胸のなかから気持ちを慎重に取り出して
瓶に入れて窓辺に飾った
それは遠い昔に大切な人からもらった思い出の瓶で
なにを入れるべきか答えが見つかったのは
その人と遠く離れてしまったあとだった
瓶に入れた気持ちは
最初こそ鮮やかな色や形を保っていたが
時とともに色あせて形が崩れ
無惨な姿に変わり果ててしまったので
彼女は泣く泣く残骸を処分して
また別の気持ちが心に宿るのを待ちつづけた
そんなくり返しの末に

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