衝動の夏/塔野夏子
 
透明すぎて何も見えなくなった視界を
侵蝕する夏

振り向いては駄目と云った
爛れ落ちてゆく意識で
最後に何を感じたの

ああ 懶(ものう)い
純粋ごっこの残滓に
濁った火をつけて
もう一度あの衝動が欲しいだけ

驕慢なままでいられたら
答えはあると思ってた

急速に暗転
だけれど所詮
透明すぎて何も見えなくなった視界
侵蝕せよ 夏

花火や 蝉の声や 夏らしい何もかもを
振り向かなかった幻影へ
鏤(ちりば)めてしまえ

ああ 気怠い
あの衝動が逃げ水のように
一瞬 閃いて 消えた


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