夏の影/塔野夏子
 
あざやかに青い空には
壮麗な夏雲が立ち
先ほどまでの蝉時雨も止んで
静かだ
永遠というものが
今此処に垂れ込めてきたかのような
濃密な静寂だ
この圧倒的なあかるさ静かさには
けれど あの夏を最後に
見失われてしまった消息が
影として 黒々と貼りついている
――ただそれを見定めないうちに
ふたたび降りしきる蝉時雨



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