夏 空/塔野夏子
日盛り
頭上に覆いかぶさるのは
この上なく濃厚な夏の青空
ひとしきり蝉時雨
百日紅の花が揺れ
――あの庭にも 百日紅がありました
と どこかから誰かの声
しばし足元に目を落とす
濃くくっきりと落ちた自分の影
そしてあらためて目をあげる
この濃厚な夏空には
幾重にも貼りついているのだ
過去の夏が
白い夏も
黒い夏も
そこから降る数かぎりない声が
空を見あげたまま
立ち尽くす身体にしみとおり
輝いた夏も
爛れた夏も
いつしか濃厚な夏空そのものが
過去の夏を連れたまま
身体に垂れ込めてきて
知っている夏も
知らない夏も
目を閉じる
そしてまた目を開ける
――あの庭の百日紅は 今はもうないのでしょうか
ああ足元にくっきりと落ちた影ごと
自分はここにこのまま灼きつけられてしまうのか
日盛り
また ひとしきり蝉時雨
前 次 グループ"夏について"
編 削 Point(4)