暗い残暑/塔野夏子
 
暗い残暑が滴ってくる

百日紅の花から
蝉時雨から
空を斑に彩る不穏な雲たちから
遠雷から

幾重にも重なる過去の記憶から……

暗い残暑が滴ってくる
そうして私の底に
暗い染みがひろがってゆく

その暗い染みにさそわれて
私は睡る
その睡りの中を
淡い悪夢が通過する

その淡い悪夢の中を
百日紅や蝉時雨や
雲たちや遠雷が通過する

そしてまた 誰とも見分けがつかない
けれど見知っているような
幾体もの幽体(ファントム)が
通過する……




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