夏の至聖所/塔野夏子
 
あの日僕らは
夏をいっぱいに浴びながら歩いていた
中空を惑星のようにめぐる虹色の夏の果実を
気ままにもぎとっては
かじりながら歩いていた
ふと蝉の声が途絶えたとき
目の前に幕があらわれた
僕らは少しためらったけれど
無言でうなずきあって
そしてそっと開けてみた
とたんに其処から
まばゆいかなしみがほとばしって
僕らはしびれるようにうたれたまま
じっと立ち尽くしていた

あのかなしみの余韻は
夏が来るたび胸の底にたなびくけれど
あれからもう二度と辿り着かない夏の至聖所




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