山岳地帯(マリーノ超特急)/角田寿星
 
れな幻影だと語る。或るものはそれはあまりに早く通り過
ぎるがために肉眼では見ることができないまぼろしの列車だと
語り、或るものはそれは真夜中に音さえもたてず秘められたま
まに走り去っていくのだと語る。南へ。南へ、南へ。ここでは
ないどこかの駅から、ここではない彼方の駅へ。ぼくは海洋特
急を折にふれて思いだし空を見上げる。

ここは山岳地帯。麓に唯ひとつ横たわる駅はみどりに浸蝕され
かけて、ぼくらの列車は山を登ることも森を渡ることもかなわ
ず何年も立ち往生している。
ほそながい雲がすごいスピードで頭上を駆け抜けていく。雲は
山頂近くの風に襲われて、出来損ないの有機物のように拡散し
て短い生涯を終える。そしてその風は海から届いてきたのだと
悟るのに、それほど時間はかからない。

   グループ"マリーノ超特急"
   Point(7)