ノート(嘘と絵本)/木立 悟
大きく重くやわらかい
三角形のパンの塔を
月あかりの径に倒してゆく
眠りに至らぬ眠り気を
眠りはひとつ抱き寄せる
(ひとつ 嘘をついていますね)
はい パンの塔を倒して
人を下敷きにしようとしました
姿は見えないはずだったのに
月がそれを暴いてしまって
窓という窓から
石が飛んできました
(でも ひとつ
良いこともありましたね)
はい ひとりの男が
海に沈んだまま
海を旅する絵本を見つけたことです
それは長いあいだ失われていた
映像の一部でした
またひとつ嘘をついた
狐の姿を暴かれ
石と犬に追われていた時
窓の下で拾った絵本には
何も描かれていなかったのだから
眠りに至らぬ眠り気は
頭痛と共に本を閉じる
水たまりに倒れたパンの塔が
ゆうるりと樹になってゆく
眠りは径の向こうへと去り
月は葉の奥から誰かを暴く
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