ノート(52Y,10・10)/木立 悟
降りたはずの人が
まだ乗っているのに
そこに居る人々は
誰も何も尋ねないのだった
列車がいつのまにかバスになり
やがてワゴン車に変わっても
共に乗っている人々は
前を向いたままなのだった
バスの窓から見える景色は
廃墟ばかりだった
みな白くほどけ
風にたなびいていた
誰もいない交差点で
ワゴン車から降りると
そこは中庭のある
旧い小さな旅館だった
到着を喜んでくれたのは
布団部屋に棲む老人だけだった
窓の光の前に居たため
表情を知ることはできなかった
廊下から見える中庭は
紙のような廃墟の
まぶしくて見えない入口に
よく似ていた
部屋の扉を閉めたあと
思い出せないことに気付いた
列車に乗る前の自分が
何処に居たのかを
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