難破した船の来歴/岡部淳太郎
 
聞こえず、年老いた、
耳の遠い者だけが聞くことが出来た。彼等は
それぞれに恐れおののき、音を聞くことのな
い若者たちを尻目に、次第に遠いところへ歩
いていった。貝のような耳朶を掌で覆い、年
老いた者たちは砂の上に力なく坐りこんだ。
接近してくる何か恐ろしいもの、その影のた
めに彼等は目を失い、ただ遠い耳だけが、古
い船と波長を合わせていた。広い海の真中で
は、大きすぎる魚が育ちつつあった。

                 勇気あ
るひとりの若者が、船の中に入っていった。
勇気や正義は、いつも時と場所を間違えて使
われる。彼はぎしぎしと軋む床を踏みしめて、
奥へ、見
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  グループ"散文詩"
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