瞬間/岡部淳太郎
 
を創造しよう
としていた。あの瞬間、あれは俺をこの世の
ことわりとは無縁のところへ誘いこもうとす
る、何者かからのしるしだったのか。あの瞬
間、俺は誰も知らないもうひとつの宇宙にた
ったひとりで放り出され、そこに取り残され
ていたのか。俺は始発駅の長いホームに立っ
て、列車を待っていた。駅の外は夜の闇で、
その暗さの法則に支配された場所だった。家
路を急がなければ。早く帰らないと、またあ
れにつかまってしまうように思えた。それが
その日の最終で、もう後はないのだった。そ
れを逃がすと、もう帰れなくなるのだった。



(二〇一〇年九月)
  グループ"散文詩"
   Point(3)