閃篇5 そのよん/佐々宝砂
い。いま見上げてみる真昼の空はくすんだピンクだ。今日は凪だな。普通の空はオレンジ、砂嵐がひどいと空は赤くなる。夕暮れには青くなる。来年は空の色が変わるかもしれない。緑になるかもしれないし銀色になるかもしれない。まあ緑はないかな。あると楽しいな。私は想像された火星人、ここは人間が空想してきた火星。その空のあいまいなこと!
5 1年前
1年前、たった1年前のことだ。道を歩いて買い物に行けた。インターネットでお喋りができた。LINEもXも生きてた。水道も電気もちゃんとしてた。人がたくさんいて道はよく渋滞して、信号待ちにもイライラしてた。たった1年前のこと。私は闇森で確保した今夜の食い扶持の野ウサギを下げて家に向かう。何もかも変わってしまった。あの特異点のあと私たちに安寧はない。私はもう私の子を大学にやることができない。
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