閃篇5 そのろく/佐々宝砂
 

こどものころ、部屋の片隅に小さな赤い光がちらちらと動くのをよく見た。特に夜寝る前に明かりを消すと視界の端っこに赤い何かが揺らめいた。特に怖いとは思わなくて、ただ不思議だと思っていた。あれから何年経ったか、明かりを消した部屋の片隅には、大型犬くらいの大きさの赤いどろどろが蠢いている。あれが何なのか私は知らない。こどものころはあれが怖くなかったなんて自分で信じられない。あれをただ不思議な赤い光だと思っていたこどものころに戻りたい。


5.好きな色

そこにない色が好きなんだ。具体的にいうとたとえば構造色だよ。モルフォ蝶の羽根、オパールの遊色、アンモライトの光彩、油膜、ビスマス結晶、鉄バクテリアの酸化皮膜。青にも赤にも緑にも見える、ああいう色が好きなんだ。まるでこの世にないようなそこにない色。ほら見上げてごらん、あれこそが僕が愛してやまない色、名状しがたい宇宙からの色、異次元の色彩! アーカムに落ちたあの色。きみもあの色に染まれ。
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