薄明の中で(十三)/朧月夜
「混沌か。世界は常に混沌としているものなのだ、フランキス」
……祭祀クーラスは、この物語では敵役として記されてはいるものの、
実は善なる存在だったのである。それは『今』の歴史を見れば分かる。
しかし、エインスベルやアイソニアの騎士にとって、
祭祀クーラスとは、誰よりも恐れるべき存在だった。
当然だろう。人は社会よりも、国家よりも、世界よりも、
自らの安寧を志すものだからだ。それを悪とは言うまい。人は自然と同じように、
相争い、自らを高めていく者としてあるからだ。
しかし、この世界ヨースマルテにおいては、全ては再構築の途上だった。
三千年前の「言語崩壊」以来、人々は何もかもを再生していかなければならなかった。
人々は、そんな使命を負っていたのである。戦争にしても然りである。
「フランキス。次の戦争は目の前に迫っている。それも、人の強欲がなせる業だ」
「あなた様は、利益や権威を越えたところに存在しています」と、フランキス。
「そうであれば、良いのだがな。しかし、そうであっても悩みは残るものなのだよ」
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