道の終わり より/沼谷香澄
 
かつて平城(ひらしろ)なりしものあり国寶(こくほう)の碑銘を残し倒壊しけり

ちかごろは酔いて吐く日の多かるになお飲みたしと書に記し置く

ないものをあるというのがくるしくてわたしは太りゆく徒に

深刻な事態ほどその渦中では判らないそして伝わってない

そうだな、きっとずっとお互いさまだったのに違いない、見ないでくれと

玉の緒の絶えたところに穴開いて流出遺失するプライバシー

肉体は道の終わりを受け入れて空(くう)の古墳を見ず引き返す

地方史の記述に粗密つくられてわが古里に社(やしろ)すくなし

散らかった玩具のなきを嘆く日が来るかもしれぬでも今じゃない

故障して撤去されたるパソコンのありたる場所にぼんやりと影

初出:Tongue11号 2004年11月10日 原文縦書

   グループ"個人誌「Tongue」収録作"
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