三月雨/石瀬琳々
 
三月雨、が降る
ほろほろとこぼれて少女は涙する
はちみつ色の瞳を濡らし鼻筋を濡らし
ああけれど溶けてしまうから唇をきゅっと結ぶ


盛り上がる雫は春の水 それとも冬の水
少女に言葉はいらない ただ心がかなしいの
いとしいの 何かがちくちくして
流れ去る川は春の水 それとも冬の水
今は気がつかなくても


三月雨、の匂い
鮮やかな傘の向こう たとえば赤い花のように
振り向いた背中にいつの日の残像が重なる
あたたかなココア 指先で抱くチョコレート


いいえ、迷っただけなのです
つぶやいて何かが過ぎていってしまう
余韻を残し感触を残し思い出、
とさえ呼べるものを
少女のまなざしが揺れ、る


せつなくて涙はほろほろとこぼれる
やがて胸のおくの入り江にたどりつくような
三月雨、が降る
雨が降、る



   グループ"十二か月の詩集"
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