九月の少年/石瀬琳々
 
やがて九月、と声が耳もとをかすめてゆく
窓辺にはレースのカーテンがひるがえり
夏の少年が静かに微笑む


君はどこからか来て何も言わずに去って行った
知らない言葉だけがわたしをさみしくさせて


九月の慰めは夏の衰えを隠すように
少年はきらきらと水をしたたらせる
光りをくちびるに軽く含んでさえいる


うつくしい、といつか囁いた日々


愛されていたその瞳に空を映しているの
雲がゆっくりと流れてゆく


いいえ それは風だったろうか
君が溺れた、白い足を水草にからませて
音もなく流れてゆく わたしのこころを
この風のように




   グループ"十二か月の詩集"
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