非力さと几帳面さと 勝目梓『恋情』/深水遊脚
状況を作り込む書き方ではなく、年老いた男性主人公からみたセックスの記憶を、感情のきれいな部分、汚い部分すべて細部にわたり描き切る書き方をしています。自分史に登場する炭鉱での労働についての描写も、そこで働く人たちの描き方も、リアルで丁寧です。この部分が現在の主人公のどこか空疎で孤独な有り様と好対照です。
年老いた男性のセックスに良いイメージをもつ人はあまりいないかもしれません。ましてお金持ちで愛人を囲っているとなると、反射的に怒り出す人もいることでしょう。でも、性的に衰えを感じていて、自嘲と劣等感が常に貼り付いている主人公は、傲慢な全能感とは無縁です。それゆえに自分の体調や感情の変化を十分に把握
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