非力さと几帳面さと 勝目梓『恋情』/深水遊脚
 
 社長で資産家で妻がいて、年老いていながら若い愛人を囲う人物がこの小説の主人公です。その人物が、初めて恋した女の人を思い出しながら自分史を小説に書きます。その自分史の文章と、妻のことや愛人のことなど今の様子とが、交互に描かれる、全体はそういう構成になっています。お互いに年老いた主人公と妻とのセックス、性に貪欲で、挿入に不安のある主人公のちょっとした試みに悦んで応える若い愛人とのセックス、そして自伝のなかの、まだ少年だった主人公が憧れた、炭鉱でともに働く少し年上の女性との、夜の海に浮かんだ舟のうえでの、夢中で求めあうセックス。この小説は一応、官能小説に分類されるでしょう。でもセックスを描くために状況
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