シークレット(散文詩)/そらの珊瑚
り、いいえ薔薇しか作ろうとしなかったのです。薔薇以外のものなんて作る価値のないものだと思っていたのでしょう)拳骨でひとつひとつスローモーションがかかったように潰していったのです。
私の薔薇園は悲鳴を上げて、無残な廃墟となりました。
すぐさま私は反撃に出ました。
K君の作った怪獣だかなんだかわからない幼稚な代物を、床に落として踏んだのです。踏んで、踏んで、踏みつけてやったのです。
息を吸うのも吐くのも忘れていました。ただぐちゃぐちゃに潰れていく粘土の悲鳴を上履きを通して感じたのです。
私は薔薇の仇をとったのでした。
以来私は粘土に一度たりとも手を触れていません。なぜなら潰すという喜びを密かに手に入れてしまったからです。
それは秘密の甘美な遊びのように囁き、玉虫色の鈍い輝きを放ちながら私を誘うのです。いつしか私の心に棲みついてしまったようです。
愛しいあなたを踏み付ける時の喜びは、苺を潰す行為そのものなのです。
この世の中に、自分にとって価値のあるものなんて、ほんのひとにぎりのことであるのでしょう。
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